日本の紅茶と「べにほまれ」:歴史と未来

日本の紅茶の物語は、明治の風と共に始まり、品種「べにほまれ」の歩みとともに彩られてきました。今、和紅茶は新たな時代を切り開いています。この文章では、日本の紅茶の歴史と「べにほまれ」の繋がりを振り返り、和紅茶の未来を描きます。

日本の紅茶:明治から現代への旅路

明治28年(1895年)、英国から初めて紅茶が海を渡り日本に輸入されました。明治維新ともに、国内でも紅茶生産が始まり、これが、後に「和紅茶」と呼ばれる日本産紅茶の礎となりました。紅茶は日本と(当時植民地であった)台湾で広く製造されました。

第二次世界大戦の開戦とともに、一時的に日本の紅茶生産は減少しますが、戦後再び、日本の紅茶生産は復活します。和紅茶は黄金時代を迎え、生産量は8,000トンに達し、その半分以上が海外へ輸出されました。

和紅茶の原点「べにほまれ」

この歴史の中で、ひときわ輝くのが「べにほまれ」です。明治初期、インドから持ち込まれた多田系インド雑種の種子から生まれ、昭和28年(1953年)にその卓越した資質が認められたこの品種は、「茶農林第1号」として「べにほまれ」と命名されました。大きな葉と深い香り、紅茶としての豊かなポテンシャルを持つ「べにほまれ」は、日本各地で、広く栽培されました。

この時期、「べにほまれ」は日本の紅茶を世界に知らしめました。昭和 33年(1958年)には、奈良県産の「べにほまれ」でつくった紅茶が、ロンドンの全世界紅茶品評会で最優秀賞を獲得するなど、国内だけでなく世界からも高い評価をうけていたようです。日本の茶畑から生まれた紅茶が、遠い異国のティーカップを彩ったのです。

しかし、昭和46年(1971年)の紅茶輸入自由化は、国内生産に大きな影を落とします。輸入紅茶の波に押され、生産量は激減。多くの茶園は緑茶へと転換し、紅茶工場は静かにその幕を閉じました。

それでも、和紅茶の物語は終わりませんでした。平成中盤(2000年代)に入ると、新たに開発された「べにふうき」などの新品種が希望の光をもたらします。和紅茶ブームが再燃し、生産者たちの情熱が再び花開きました。日本の紅茶は、過去の遺産を胸に、新たな挑戦を始めています。

近年は、三重県や奈良県などで、「べにほまれ」を復活させるプロジェクトが始動しています。

日本の茶畑から生まれる一杯の紅茶は、過去の知恵と現代の情熱が溶け合い、飲む人の心を温めます。「べにほまれ」は、和紅茶の原点としてこれからも輝き続けます。日本の紅茶文化が持つ無限の可能性を教えてくれます。

・べにほまれ

〇交配親(母×父) :
カルカッタ導入多田系印度種実生から選抜

〇品質特性:
・成葉は“楕円形”で大きく、濃緑色で表面の皺が目立つ。光沢、葉縁の波、反転度は“中位”である。
・紅茶用として品質優良、とくに水色と滋味が濃厚で、独特の香気を持つ。

※写真は奈良県東吉野村の自茶園から

・べにふうき

〇交配親(母×父):
べにほまれ×枕Cd86

〇品質特性:
・紅茶品質は極めて良好で、清香、水色は深紅色で滋味は濃厚である。
・発酵性が良く、クリームダウンが顕著に認められる。
・半発酵茶としての品質は、形状がやや大柄であるが、「鉄観音」に似た高い芳香を有し、渋味はやや強いが独特のうま味がある。光沢はやや黒味を帯びた紫紅色でツヤがある。

※写真は奈良県東吉野村の自茶園から

・いずみ

〇交配親(母×父):
べにほまれの実生から選抜

〇品質特性:
・品質は、かまいり製玉緑茶としての香味は極めて優れている。
・形状はしまりが良く、光沢が多く、特殊な香気があり、味は強烈でこくがある。
・一番茶は特に品質が良好であるが、夏茶はわずかに苦味を帯びることがある。
・香気は極めて良好で中国産スペシャル級と同じで、滋味にこくがあり、砂糖を加用しても香味は消えず輸出用茶としても優良である。

※写真は奈良県東吉野村の自茶園から

・べにふじ

〇交配親(母×父):
べにほまれ × C19

〇品質特性:
・品質は「べにほまれ」と同様な特徴を持っていて、若芽摘みする場合には同程度に優れるが、こわ葉摘みの場合は「べにほまれ」よりやや劣る。